この石を知っていますか?


これは、オリビン(olivine:カンラン石)と呼ばれる鉱物です。オリーブ色をしたその美しい色合いからこの名前がつきました。もっとも、この名前よりも ペリドットという宝石名のほうがなじみが深いかもしれません。8月の誕生石の1つです。 こうした大きなものを手にすることはなかなか困難ですが、この鉱物、実は私たちの足下に大量に存在しています。

地球内部は大きく分けて5つの層からできています。地表から深さ数十kmまでを「地殻」、そこから660kmまでを「上部マントル」、そこからさらに2900kmまでを「下部マントル」、ここまでが岩石からできている部分です。その内側には鉄合金が溶けた状態の「外核」、さらにその内側、地球の中心までは固体状態の鉄合金からできている「内核」があります。この「上部マントル」はペリドタイトという岩石からできていると考えられていますが、その約60%を占める鉱物が、あなたが今、目にしているようなオリビンなのです。

この鉱物、地球科学的には非常に重要な意味をもっています。地下400kmには地震波速度が不連続に増加する面が存在しますが、これはオリビンがβスピネルという鉱物に相転移した結果と解釈されていますし、また沈み込む海洋プレート中でおこるオリビンからβスピネルへの相転移が深発地震の原因との考えもあります。 最近、ドイツの研究グループが、このオリビン中に0.12wt%もの水が入りうるということを、高圧実験とその生成物の分析によって見いだしました。たかが0.12%というなかれ。地球の海の体積は約14億立方キロメートル、それに対して上部マントルに存在するオリビンは重量換算でその200倍以上もあるのです。大西洋まるごと一つ分の水が、上部マントルのオリビンの中に蓄えられているかもしれません。


マントル捕獲岩 [ペリドタイト] (ブリティッシュコロンビア・ケトルリバー)

アルカリ玄武岩の火山活動によってマントルより地表に運ばれたマントルの岩石です。60%以上を占める薄緑色の鉱物がolivineです。


Oceanite(インド洋レユニオン島・フルネーズ火山、Sample#-RF95-86)

ペリドタイトが部分溶融すると玄武岩質マグマが生じます。玄武岩の中にはこのオリビンという鉱物がごく一般的に含まれています。しかし多くの場合はその大きさは1ミリにも満たないものです。この玄武岩質マグマが地下でゆっくりと固化すると、オリビンの大きな結晶が生じます。こうして作られたオリビンが、次の噴火の際に新しいマグマに取り込まれて地表に顔をだしたのがこのOceaniteです。